南島漂流記
2004年5月前
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ツマグロオオヨコバイ
NikonD1X Sigma105/2.8Macro Speedlight
2004.5.15

 今回の東京滞在も今日で終わり。沖縄に戻る前に、爽やかな好天に恵まれた実家の庭に出てみました。文字どおりの猫の額ほどの広さですが、私の昆虫写真のフィールドの原点でもあります。中学、高校の頃は、この庭で見つけた昆虫ばかりを撮影していました。
 その庭で一番目に付いたのが、このツマグロオオヨコバイ。昔からたくさんいましたが、相変わらずのようです。体長が10mm足らずと小さく、接写の練習台によくなってもらったものです。ちょっと懐かしくもあり、久しぶりにレンズを向けてみました。数十枚シャッターを押しましたが、あまり納得のいくカットはありません。昔のほうが巧かったかなぁ・・・

2004.5.13

 今日は、海野和男デジタル写真展「小諸日記Part3」のオープニングにお邪魔しました。海野和男さんは、私の昆虫写真の師匠のお一人で、学生時代からいろいろなご指導を頂いています。私が憧れた写真家は何人かいらっしゃいますが、実際に写真家としてやっていく上で最も具体的なアドバイスをくださったのが海野さんなのです。
 昆虫写真を専業にしている写真家は意外に少なく、国内で恐らく一桁の人数でしょう。かつて、身内の葬儀の場で、葬儀屋さんに「特殊なご職業で」と言われた経験があるくらいですから・・・これは、その希少動物の昆虫写真家が会場に集まって撮った記念写真なのです。右端の海野さんの隣が、私と同年生の新開孝さん。そして私。さらに左端の森上信夫さんも昆虫写真を撮り続けているのですが、皆から焚き付けられてもなかなかフリーにならない人物です。
 海野さんの写真展は神田小川町のオリンパスギャラリーで今月26日まで開催されています。E-1というオリンパスのデジタル一眼レフで撮影された作品は、やや小型のCCDにもかかわらず、とってもシャープな映像で驚かされます。


海野和男さん(右端)写真展オープニングパーティ(田中博さん撮影)
NikonD1X Sigma18-50/3.5-5.6 Speedlight


ロバート・キャパ展会場入口
NikonD1X Sigma18-50/3.5-5.6
2004.5.12

 今日から数日間、東京での生活です。いくつかの用事がありますが、その中の楽しみのひとつが、この「知られざるロバート・キャパの世界」展を観に行くことです。恵比須の東京都写真美術館で16日まで開催されていますので、ギリギリ間に合いました。
 このサイトの私の略歴でも触れていますが、私が最初に写真家に憧れたのは、このロバート・キャパの唯一の著書『ちょっとピンぼけ』が切っ掛けでした。その後も、キャパの魅力は薄れることなく、今でも出来るだけ写真展に足を運び、ちょっと無理して写真集を買ったりしています。
 今回はキャパ没後50年ということで企画された展示会ですが、全世界で多くの人がキャパに魅力を感じ続けていることに驚かされます。今回も新たに発見されたオリジナルプリントや新事実が公開され、世界的に根強いキャパ人気を確認することが出来ました。
 やや残念だったのが、どの作品が今回発見された未公開作なのかが解り難いなどの構成の仕方と、あと会期を9日間長く設定すれば、最終日がキャパの50回目の命日であったのに・・・ということでした。

2004.5.11

 ナナフシの仲間はカムフラージュの身近な例のひとつでしょう。沖縄には数多くのナナフシが生息していますが、余り研究の進んでいないグループでもあります。数多いナナフシの中には、なかなか興味深いものもいます。前脚を伸すと全長30cm前後にもなるオキナワナナフシの雌、枯枝にそっくりなコブナナフシ、そしてこのリュウキュウトビナナフシなどです。
 リュウキュウトビナナフシは、多くが翅(はね)の退化したナナフシの中にあって、翅が残っているのが最大の特徴です。もっとも、かなり太めの雌は、この小さな翅では飛ぶのはちょっと無理な印象です。さらに、植物と同じ緑色の保護色の効果はあっても、それ以上の隠蔽効果はありそうに思えません。それに対して雄の隠蔽効果はかなりのものだと思います。胴体と前脚は明褐色で、中脚と後脚は緑色です。このために、前脚を伸して静止すると、中脚と後脚は植物の緑色に埋没して、一本の枝のように見えるのです。さらに、細身の雄は、実際に飛ぶことも可能です。


交尾するリュウキュウトビナナフシ
NikonD1X Nikkor10.5/2.8Fisheye Speedlight


イヌビワの実から吸汁するオオルリオビクチバ
NikonD1X Sigma105/2.8Macro Speedlight
2004.5.10

 これまでに何度この光景に遭遇したことでしょうか?夜、林道を車で走っていると、地上に無数のえんじ色に光る物が見えるのです。「なんだろう?」と思って、車を停め、近付くと、その光る物体は一斉に舞い上がってしまうのです。しかし、その正体がオオルリオビクチバの眼であることと、彼らが地上に落ちているイヌビワの実から吸汁していただろうことだけは判りました。
 そして今夜は、さすがに何度か同じことを繰り返した学習の成果でしょう、予め慎重に近付き、その吸汁の姿を撮影することが出来ました。欲を言えば、この蛾の最大の特徴である後翅(はね)のルリ色の帯の色が出ていないことと、あの無数に輝く物体というイメージが再現出来ていないことが残念です。

2004.5.9

 昨夜から今朝にかけて、かなりの強風が吹き荒れ、夜の照明に飛来する昆虫の数もいまひとつでした。でも、そのような寂しい晩に、ひとつだけ華を添えてくれたのが、このハグルマヤママユです。
 あの世界最大の蛾とも言われるヨナグニサンと同じヤママユガ科です。もっとも、その大きさは両極端で、ハグルマヤママユは前翅(はね)の長さが約45mmとヨナグニサンの3分の1程度しかありません。色彩は、ヨナグニサンの赤色系を基調にしたものに負けない、黄色系の鮮やかさです。
 沖縄で見られるヤママユガには、他にヤママユ、クスサン、シンジュサンなどがいますが、これらは大きさも色彩もどこか中途半端な印象があります。個人的には、ハグルマヤママユとヨナグニサンが、見る度にハッとする存在なのです。


ハグルマヤママユ
NikonD1X Sigma105/2.8Macro Speedlight


吸汁するアカギカメムシ
NikonD1X Sigma105/2.8Macro X1.4Telecon Speedlight
2004.5.8

 アカギカメムシには、ちょっと思い入れがあります。10年以上前に数年掛かりで生活史のほとんどを撮影したことがあります。その撮影を通して、初めて判った生態がいくつかありました。
 沖縄本島では、基本的に5月と6月に連続して2回繁殖します。これは、幼虫の餌になるアカメガシワの実の時期にシンクロしているのです。その後、成虫が数万匹の大集団を造りますが、これは夏に最大規模となり、次第に規模が小さくなり、真冬に分散してしまいます。それまでは、越冬集団だと言われていたのですが、これは集合するアカメガシワの葉が夏は茂っていて集団が目立たず、冬は葉がまばらになるため、急に集団が目立つようになるためのようです。さらに、体色についてもそれまでとは異なった発見がありました。樹来、沖縄本島では黄色いカメムシが多く、八重山諸島では赤いカメムシが多いと言われていました。しかし、これは新鮮な虫は鮮やかな赤色をしているのが次第に色褪せて、オレンジ色、黄色、灰褐色と色が変化していくのです。沖縄本島よりもアカメガシワの実の着く季節の長い八重山諸島では繁殖回数が多く、新鮮な虫を見る機会が多かったのです。
 さて、この写真のアカギカメムシは赤い色をしていますが、新鮮な虫ではありません。昨年の今頃繁殖して、越冬したものなのです。当然、羽化から長い時間生きているので、体色は一旦灰褐色まで色褪せたのです。しかし、このアカメガシワの実から栄養を摂取すると、再び体色が鮮やかに若返るのです。余程、アカギカメムシにとっては栄養に富んだ実なのでしょう。

2004.5.8

 ついこの前まで独特のの目立っていたイルカンダですが、急に豆の鞘が目立ってきました。まだ小さな鞘ですが、生長すると長さ50〜60cmにもなります。さらに、蔓自体は樹高20m前後の林冠にも達する高木に絡んでいます。そのために「ジャックと豆の木」の豆の木に例えられることもあります。
 亜熱帯沖縄らしさを演出してくれる植物にはいくつかありますが、このイルカンダも、ヒカゲヘゴとクワズイモと並んだ役者だと思います。しかし、前記の2種と違って季節限定なのが、ちょっと残念です。せめて何処でも目立つくらいにたくさん鞘を着けてくれればと思うのですが、ここ数年やや不作の印象でした。それが今年はかなりたくさんの鞘が見られます。久しぶりの豊作のようです。
 豊作の森でもうひとつの発見。まだ小さな豆の鞘は、まるでインゲンのような姿でした。太い蔓からぶら下がるインゲン、何処か不思議な光景でした。


イルカンダの鞘
NikonD1X VR Nikkor80-400/4.5-5.6ED


シャクガの一種
NikonD1X Sigma105/2.8Macro Speedlight
2004.5.7

 夜の照明に集まる昆虫がかなり増えてきました。その中でも特に多いのが、蛾と甲虫の仲間でしょう。それも季節とともに少しずつ、やって来る種類が移り変っていくのが興味深いところです。
2週間前までは全く目にしなかったこの蛾は何という種類でしょうか?手許に図鑑がないので、シャクガの仲間である程度しか判りません。しかし、種名が判ったからといって、その昆虫のことすべてが判る訳でもありません。
 それにしても、電灯に飛来した昆虫というのは、標本のような存在です。本来の生息環境を反映せずに、人工的な所にとまっているのですから。それも虫自身の意志ではなく、悲しい性のために飛んで来てしまったのですから、「なんでこんなとこに来てしまったの・・・」と言ったところでしょう。
 その昆虫の模様や色彩から、本来の生息地などを想像するのも楽しみのひとつです。例えば、このシャクガの場合、全身の基調は緑色ですから、きっと葉の上や裏にとまるのが日常なのでしょう。すると、各翅(はね)の中央にある模様は、虫喰い穴にでも見えるのかもしれません。翅の後縁の縁取りはまるで刺繍のようですが、却ってこれは虫の存在を際立てせてしまって、対天敵戦略からすると不利かもしれませんねぇ。

2004.5.5

 沖縄地方の梅雨入り宣言がありました。例年よりも3日早いだけだそうですが、連休中の梅雨入りは随分早い印象です。これからしばらくの間、撮影にも影響が出ることでしょう。しかし、しっかり降ってもらって、水不足を解消してほしいものです。
 梅雨の季節を代表する花というと、イジュとゲットウが思い浮かびます。イジュは沖縄本島では北部に行かないと見られませんが、ゲットウはとても身近な植物です。沖縄では一般にサンニンと呼ばれ、よい香りの葉は餅や饅頭などを包むのに使われます。
 ゲットウは、まだ花期に入ったばかりで、沖縄本島中南部では、花よりも蕾のほうが目に付きます。個人的には、ゲットウの花よりも蕾のほうが好みです。花は赤と黄の原色の組み合わせでストレートなイメージですが、蕾はアイボリーと薄紅色の組み合わせで、梅雨のイメージにより相応しいように感じます。


ゲットウの蕾
NikonD1X Nikkor70-300/4-5.6ED PL-Filter


ヒメゴマフコヤガ
NikonD1X Sigma105/2.8Macro Speedlight
2004.5.4

 ゴールデンウィークに山原(やんばる=沖縄本島北部)へ行くことは、まずしません。第一に道が混むのと、普段とは違う人々が山奥まで入って来て、キャンプをしていたりするので、とても落ち着いて撮影することが出来ないからです。そこで、いつもの散歩コース、琉球大学構内での被写体探しとなります。
 これがなかなか馬鹿に出来ない被写体に出会うのです。昨日、今日と続けて見られたのが、このヒメゴマフコヤガ。前翅(はね)の長さが1cm弱の小型の蛾で、決して珍しい種類ではありません。それでも、そう頻繁に会える相手でもなく、ときどき姿を見かけると、何となく嬉しくなってしまうのです。
 地味と言えば地味ですが、律儀に黒い水玉模様を等間隔に並べている真面目さが、何処か笑ってしまいたくなるのです。生物の体は、基本的にシンメトリーなのは解りますが、このように指標を打ってくれると、もう歴然です。しかし、同時に完全なシンメトリーはないとも言われますが、なるほど細部を観察するとわずかに異なっているのも解ります。

2004.5.3

 このところ、いろいろな種類の昆虫が次々と出現してきます。数日前から気付いていましたが、今日はこのオキナワイチモンジハムシが、急に数を増したような気がしました。
 数匹が並んで無心に摂食している姿は、なかなか微笑ましい光景に映ります。しかし、これからさらに数が増え、クワ科植物の新芽や若葉に黒々と光るように群れていたり、芋虫状の幼虫が同じように集団を作っていたり、その食痕や糞が目に付くようになると、もうそうは言ってられません。園芸害虫、不快昆虫と言われても仕方のない状況です。
 と言うことは、今が可愛い盛りというのはちょっと変な表現ですね、やはり・・・


オキナワイチモンジハムシ
NikonD1X Sigma105/2.8Macro Speedlight


ヒラヤマメナガゾウムシ
NikonD1X Sigma105/2.8Macro Speedlight
2004.5.2

 何年ぶりに出会ったでしょうか?とても美しい色彩をしたゾウムシですが、いつもこの姿とは限りません。この色は、体表に粉が付いているだけなので、羽化後しばらくすると、擦れて取れてしまい黒っぽくなっていきます。このような現象はゾウムシではよくあることです。これまでに見たことのないゾウムシだと思い図鑑で検索するのですが、該当する種類がありません。しかし、よ〜く観察してみると、色彩こそ違え形態はそっくりの種類が見つかるのです。
 つまり、このゾウムシは羽化直後ということのようです。すぐ近くに、幼虫が好むインドゴムノキがあったので、他にもいないか探してみたのですが、この1匹だけでした。
 そう度々見掛ける種類でもないのですが、何年かに一度、インドゴムノキやガジュマルなどで大発生することがあります。今年も、もしかするとそのような年なのかもしれません。これからしばらく、気を付けてみたいと思います。

2004.5.1

 気温の上昇とともに、爬虫類の活動が目に付くようになってきました。夜、電灯に集まる昆虫を探していたら、木の枝で休むオキナワキノボリトカゲを見つけました。
 これまでにも何度か見た光景ですが、いつもこのように前肢で枝を抱きかかえるようにして寝ています。まるで、抱き枕を抱えているかのようなポーズです。そして、腹部が呼吸にともなってゆっくりと動いています。撮影を始めると、気になるのか時々薄目を開けて、こちらの様子を伺います。それでも、眠気には勝てないのでしょう、また面倒臭そうに、眼を閉じて寝てしまいます。
 とても人間臭いオキナワキノボリトカゲの寝姿です。このように動物を擬人化して見てみると、愛着が湧いて苦手な動物克服にも役立ちます。しかし、野生動物にあまり「可愛い」「可哀想」という感情を込め過ぎると、本質を見失い勝ちなので、その加減が難しいところです。


夜、枝で寝るオキナワキノボリトカゲ
NikonD1X Sigma105/2.8Macro Speedlight

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