南島漂流記
2005年7月後
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クマゼミを捕食するアシダカグモ
NikonD2X Tamron90/2.8Macro Speedlight
2005.7.31

 ここ数日、宿の庭で羽化するクマゼミを観察していますが、意外にも失敗する割合が多いように思います。
 途中でアリにたかられたり、反り返ったときに障害物に邪魔されたり、何故か翅(はね)が伸びきらなかったり、原因はさまざまです。今日、羽化の撮影をしていて、これまで見たことのない失敗例を見ました。ひとつは、羽化途中でアシダカグモに捕食されてしまったもの。もうひとつは、羽化は無事に終えたのに、明け方にカラスに捕食されてしまったものです。あれだけ、たくさん五月蝿く鳴いているクマゼミも、いろいろなハードルをクリアした個体たちなのですねぇ。

2005.7.31

 久しぶりにセミの羽化を撮影しました。最初に昆虫の羽化を撮影したのがアブラゼミで、東京の実家の庭でのことです。確か高校3年の夏休みだったと思います。
 その後は、チョウの羽化を撮影することが多くなり、セミの羽化を最初から最後まで撮影したのは、高校3年以来だったかもしれません。
 クマゼミの羽化を撮影しながら、羽化後の成虫はほとんど黒い体色なのに、羽化途中は意外にもカラフルで、ちょっと夕張メロン味かも?などと考えてしまいました。


クマゼミ
NikonD2X Tamron90/2.8Macro Speedlight


クロカタゾウムシ
NikonD2X Insecteye-Lens Speedlight
2005.7.30

 今年の沖縄、特に八重山地方は、天候不順で生き物の出現時期が例年どおりではありません。今年は頻繁に西表島通いをしているのに、これまで一度も目にしてなかった昆虫のひとつにクロカタゾウムシがいます。
 今日は、このところ御無沙汰していた林道に台風5号通過後初めて入ったところ、至ところに倒木があり行く手を阻まれてしまいました。細い林道のため、車を方向転換できる場所は限られています。仕方なしに車に積んであった折畳み式の小さな鋸で切り倒すこと10数本。ちょうど12時から2時の最も陽射しの強い中で作業をしたため、すっかりバテてしまいました。
 3時間程費やしてやっと方向変換の出来る目的のポイントまで辿り着いたときは、もうダウン寸前でした。ところが車を停め、一休みと思ったときに、車の前方の枝を歩くクロカタゾウムシの姿に気付きました。休みたいのは山々ですが、今年初めて出逢ったクロカタゾウムシです、何としてでも撮影しなければと、カメラ片手に車外に出たのでした。

2005.7.29

 今日は、また虫の眼レンズによる撮影です。スッキリ晴れ渡った青空を見て、それを背景に撮影したかったためですが、準備しているうちに雲が増え、青空は少しだけになってしまいました。
 一昨日に続いてのアカギカメムシです。このカメムシの特徴のひとつに親による卵塊と若齢幼虫の保護行動が挙げられます。蟻や寄生蜂から物理的に守る他、今日のような炎天下では卵の温度管理までします。まず、脚を延ばして卵塊と体の間の空間を作り、風通しをよくします。そして、針のような口の先から水分を分泌し、卵の表面に塗るのです。そうすれば、水分の蒸発によって気化熱が奪われ、卵の温度が下がるわけです。さらに、幼虫になってからも、親は同じ方法で幼虫に水分を補給します。
 さて、不思議なのが若齢幼虫や卵塊を保護しながら交尾している雌のいることです。カメムシの雄は、交尾後、自らが交尾栓となって、他の雄と交尾をさせない戦略を採る種が数多く知られています。しかし、さすがに交尾をしながらでは、産卵は出来ません。だとすると、この雄は産卵後にやって来て交尾したのでしょうか?それとも、産卵のときだけ離れて、再び交尾したのでしょうか?後者だとすると、かなり用心深いと言うか、嫉妬深い雄ですねぇ。


アカギカメムシ
NikonD2X Insecteye-Lens Speedlight


コナカハグロトンボ成熟雄
Ricoh Caplio GX8 Wide-conversion Lens
2005.7.28

 例年よりも開花が遅れ、前回あまり撮影出来なかったサガリバナの状況を確かめに行ってきました。
 渓流沿いの道を20分程度歩いたところにある、大きな群落なのですが、着いてみると、ある程度まとまった落花が見られます。これならば、なんとか撮影出来そうなので、夕暮れの開花まで他の撮影をして過ごすことにしました。
 これも台風の影響なのか、昆虫の姿はあまり多くないのですが、さすがに渓流環境だけあって、トンボが目に付きます。ちょうど流れと森を背景にした小枝で占有行動をしているコナカハグロトンボの雄を見つけ、ちょっとモデルになて貰いました。
 このところ、「虫の眼レンズ」の使用が多いのですが、この程度の大きさの被写体ですと、いつものコンパクトデジカメだとちょうど背景のボケ具合も適度で、とてもよい雰囲気になりました。何よりも手軽に撮影できるのが嬉しいですね。また、あまり背景までくっきりピントが合ってしまうと、状況によっては煩雑な印象になってしまうこともあるので、今回は周りの環境も分り、被写体も浮かび上がり、ちょうどよいのではないでしょうか?

2005.7.27

 今日やっと本格的にフィールドに出てみました。台風の影響は風向きによるのでしょう、ほとんど何ともないところもあれば、木の枝がかなり折れているところもあります。
 影響の少なかった場所のアカメガシワの木では、卵塊を守るアカギカメムシの姿が目に付きます。確認しているだけで、今年何回目の繁殖でしょうか?少なくとも既に3回目ではないかと思うのですが。
 以前は、アカギカメムシの体色は、地域変異があると言われていました。沖縄本島地域では黄色い個体が、八重山諸島では赤い個体が優勢だと。ところが、撮影を通して観察して見ると、同じ個体が羽化直後は鮮赤色であるのが、オレンジ色から黄色、灰白色へと時間とともに変化していくのです。
 沖縄本島では基本的に5、6月の2回だけ繁殖します。これは幼虫の成長期の栄養源として強く依存しているアカメガシワの実のある時期に当たります。これが八重山では、実のある時期が長いためにアカギカメムシの繁殖回数が多く、新鮮な赤い個体を目にする機会が多いのではないかと推測したのです。そして今年、頻繁に八重山通いをしてみて、そのことが裏付けられたように思います。年内にあと何回くらい繁殖するのでしょうか?


アカギカメムシ
NikonD2X Insecteye-Lens Speedlight


ヤエヤマカネタタキのペア
Ricoh Caplio GX8 Speedlight
2005.7.26

 今日からまた久しぶりの西表島です。本当はもっと早く来る予定だったのですが、先日の台風5号などの影響で、3週間振りとなってしまいました。早速、台風の影響を確認したいところなのですが、飛行機は遅れるわ、船は遅れるわで、西表島に着いたのは夕方になりました。中途半端になるよりも、今日は明日以降の準備に充てることにしました。
 それでも気になるので、夕暮れ時に宿の周りを歩いてみました。蚊を除いては、やはり昆虫の姿が少なく感じられます。ところが、1枚の葉の上に鮮やかなオレンジ色の物が乗っているのに気付きました。よく見るとヤエヤマカネタタキの雄の翅(はね)です。近くには数匹のなかまがいます。中に1匹だけ雌がいて、盛んに求愛されていました。雄に比べると地味な雌ですが、雄のカネタタキにとってはとても魅力的に映るのでしょうね。

2005.7.24

 今日も虫の眼レンズによる撮影です。このカットは、昨日のように最広角端ではなく、また絞りも絞り込んで被写界深度を稼いでいます。そのためにシャッタースピードが遅く、三脚を使用しています。
 背景の状況もまでよく判り、人が歩いているのも判別出来ます。かなり、虫の眼的な雰囲気になってきました。
 しかし、ふとこれは虫の眼レンズというよりも人間の眼に近い映像なのではないかと思いました.高性能の人間の眼は瞬時にピントが合いますから、目の前の小さな物から背景まですべてにピント合っているような印象を受けます。また、視野も色があってクリアに見えている部分はそれ程広くないのですが、これまた即座に視野を移動出来ますから、かなり広い範囲をクリアに見ているような意識があるのです。そのようなイメージを再現したのが、このような映像なのではないでしょうか?
 それに、複眼と単眼を組み合わせた昆虫の視覚が実際どのように見えているかは、まだ誰も体験したことのがないのですから。


オキナワクワゾウムシ
NikonD2X Insecteye-Lens Speedlight


ウスキシロチョウ
NikonD2X Insecteye-Lens Speedlight
2005.7.23

 実は納品された虫の眼レンズに使われている、あるレンズメーカー製のメインレンズに不具合が起きました。かなり頻繁に生じる症状らしいのですが、絞り機能が働かなくなるのです。初期不良による交換あるいは修理に出そうと思ったのですが、試行錯誤で触っているうちに構造が理解出来、直せました。これは不具合が生じて当たり前のような構造で、そのまま製造、販売されているのに首を傾げたくなります。
 さて、いきなりのトラブルでしたが、自力でクリア出来、本格的な撮影をしてみました。
 光学系が暗いので、自然光による手持ち撮影はかなり難しいものがあります。基本的には三脚使用が前提ですが、ストロボを使用すれば、手持ち撮影も可能でしょう。しかし、レンズ先端から被写体までのワーキングディスタンスが1cm前後の場合が多く、ストロボの取り付け方には工夫が必要です。それもなんとかクリアし、初めて手持ち撮影してみたのが、今日の写真です。生憎の曇り空で、背景に奥行きが出せなかったのが、残念です。

2005.7.22

 数日前に届いた「虫の眼レンズ」ですが、2日程テスト撮影をし、いろいろと特徴や欠点などが解ってきました。
 このように撮影すると、如何にも迫力ある写真が撮れそうな風貌をしています。このような光学系のレンズを考案されたのは、栗林慧さんです。それが、現在ではお金を出せば、誰でも手に入れることが出来るようになりました。
 どのような分野の仕事であっても、最終的に求めるのはオリジナリティでしょう。写真の世界でのオリジナリティとは、当然のこと映像表現にあります。それには、このような新しい機材やテクニックを用いることで、これまでにない映像を産み出すこともありますし、テーマのオリジナリティもあります。
 私の場合は、後者に強く依存した活動スタイルを採っています。「熱帯でも温帯でもない亜熱帯とは何か?」「日本の中の亜熱帯」を映像表現するのが、最大のテーマだと考えています。そのために、その状況、状況で最も適した表現方法を選択できればと思います。そしてそれぞれの機材やテクニックを考案した方々に感謝しつつ使わせて頂いているのです。


虫の眼レンズ
Ricoh Caplio GX8


アサヒカメラ8月号
NikonD2X Insecteye-Lens
2005.7.21

 昨日発売のアサヒカメラ8月号に、今年3月に偕成社から刊行された「虫から環境を考える」シリーズの写真が掲載されています。私以外の著者も全員の写真が、一堂に紹介されています。
 私の『亜熱帯林にかくれるコノハチョウ』の写真も1ページですが、掲載されています。アサヒカメラに作品が掲載されるのは12年ぶりになります。
 ちょっと残念なのが、個人的には決して使わない「ヤンバル」というタイトルが付けられていることと、私がだけがデジタル撮影ではなく、フィルム撮影ということです。昨年は、8〜10年周期でコノハチョウの食草の枯れてしまう年にあたり、新しい写真が1カットも撮影できなかったのです。読者に、デジタル嫌いの頑固者に思われやしないかと、やや心配です。

2005.7.20

 昨年から注文していたレンズがやっと届きました。所謂、「虫の眼レンズ」と呼ばれている被写界深度の非常に深いレンズで、いかにも昆
虫の視線で見たような映像が撮影出来るのです。
 しかし、その構造は下の写真のようなもので、お世辞にも扱い易いものとは言えません。自動絞りなんて当たり前の機能もありませんし、暗い光学系なのでピント合わせもかなり難しいものです。それ以前に、レンズの光軸を中心に合わせるだけでも至難の業なのです。普通のマクロレンズで、動き回る昆虫を追い掛けるのとはかなり違った世界です。
 1枚シャッターを切るだけでも苦労するレンズですが、巧くいけばとてもインパクトのある映像が得られます。さて、これからどんな作品が生まれることでしょう。


ヤマトシジミ
NikonD2X Insecteye-Lens Speedligt

虫の眼レンズ
Ricoh Caplio GX8


沖縄本島産クマゼミ
Ricoh Caplio GX8
2005.7.18

 沖縄本島地方は、台風の強風域から抜けましたが、まだどんよりと曇ったままです。いつものようにホルトノキの集まるクマゼミも、ちょっと物足りなさそうです。
 本州から宮古島に分布するクマゼミは、外見も分類上も全く同じだとされています。それが、石垣島、西表島では、腹部の中央部が白化します。さらに、7月8日に紹介したように、与那国島では腹部のほとんどが白化します。
 このように北東から南西にいくに従って、体色が薄くなる傾向は、モリバッタでも認められます。これは、より日射の強い地域での体温調節への適応なのではないでしょうか。

2005.7.17

 いよいよ台風5号が近づいてきました。沖縄本島中南部も朝から強風域に入っているようで、強風が吹き荒れています。幸いにも、沖縄本島地方は暴風域に入ることはないようです。
 いつもですと、これで一安心といったところなのですが、今年はそうも言ってられません。西表島を初め、八重山の島々を舞台にしたビデオ作品の撮影に通っています。915hp近くまで勢力の発達した状態で、西表島や与那国島にかなり接近したコースを通るようです。
 例年よりも遅れているサガリバナの花やミカドアゲハなどのチョウ、来月発生のピークを迎えるヨナグニサンたちはどうなってしまうのでしょう。そして、まだ本格的な対面を果たしていないイリオモテヤマネコは、どうやって暴風雨を凌いでいるのでしょうか。


強風に曝されるカンヒザクラの木
NikonD2X Sigma20/1.8


リュウキュウアブラゼミ
NikonD2X Sigma20/1.8 Speedlight
2005.7.16

 台風5号が接近し、風も強まり曇っています。今日、ふと立ち寄った公園はちょっと不思議な雰囲気でした。地面は一面赤土に覆われ、雨でも降れば泥濘に化すのは一目瞭然と言った環境です。そして、植えられているのは、ほとんどがリュウキュウマツ。下草もなく、何処か殺伐とした、あまり昆虫との遭遇には期待出来ない感じでした。
 ところが、ある木の葉裏にたくさんのセミの抜け殻が付いているのに気付きました。そして、その木の根元には、たくさんの穴が開いています。そう言えば、リュウキュウアブラゼミが産卵するのはリュウキュウマツでした。周りを捜すと、確かにリュウキュウアブラゼミの姿がありました。しかし、近くからほとんど鳴き声は聞こえてきません。
 前から気になっていますが、セミの仲間は、鳴く(繁殖行動)木と吸汁する木と産卵する木が違う場合が多いように思いますが、実際はどうなのでしょう?

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